日本高等教育評価機構だより(日本私立大学協会発行『教育学術新聞』連載)

平成29(2017)年2月22日分掲載

質保証分野における国際化の重要性
―当機構の取組みと高等教育への寄与について―

公教育諸原則の確立は19世紀

 近代ヨーロッパの成立は、30年戦争を終結に導いたウエストファリア条約(1648年)に端を発したといわれる。近代になると西ヨーロッパの主要国は、主権国家体制の確立や国際法の発展などに支えられて、今日まで連綿と続くいくつもの制度を着々と築き上げていった。教育の分野もその一つである。普通教育、義務教育、一斉教育、教育の機会均等、教育費の公的負担など、いわゆる公教育に関する諸原則は、日本を含む多くの国々で19世紀中に確立した。

国内完結から国際化へ

 公教育の目的は、国家社会にとって将来有為な国民を育成することにある。したがって、公教育は国家意思の具現化ともいえる。換言すれば、きわめてドメスティック(国内的)な、あるいは一国家内における自己完結的な営みなのである。今でこそわれわれは、教育の国際化あるいはグローバル教育といった表現や語彙に慣れきっているが、教育の分野における国家間連携や国際協力が実際に行われるようになったのは、それほど古い話ではない。第二次世界大戦以前に教育協力を目的とした国際組織は、ジュネーブに本部が置かれた小規模な国際教育局(IBE)しか存在しなかった。
 しかし今や教育においても、国際関係・国際協力の重要性は自明のこととなっている。たとえば高等教育の分野では、国際連合教育科学文化機関(ユネスコ)をはじめ、経済協力開発機構(OECD)や欧州連合(EU)などが、学位の互換性や学生の移動促進といったさまざまな協力活動を展開している。ヨーロッパにおけるボローニャ・プロセスやエラスムス計画などはその好例である。

質保証の国際化の高まり

 私どもの機構が拠って立つ高等教育の質保証の分野に関しても、また例外ではない。世界レベルでは「高等教育質保証機関国際ネットワーク」(INQAAHE)が積極的に活動しており、その地域的下部組織である「アジア太平洋質保証ネットワーク」(APQN)や「米国高等教育アクレディテーション協議会質保証グループ」(CHEA International Quality Group )などの存在も無視できない。
 わが国における「高等教育の国際化」は、教育全般に関わる諸トピックスの中でも最も今日的課題の一つであり、「質保証の国際通用性」(※注)への意識が高まっているのである。

 しかし、本機構の主要業務である大学の認証評価事業のなかで、これまで必ずしも正当に位置づけられてきたとはいえない。主な国際的な活動としては、先に挙げた質保証関連の国際組織の総会等に職員を派遣したり、本機構の事務局に海外からの専門家等を不定期に受け入れたりする程度にとどまっている。

フィリピン、韓国の評価団体と協定

 とはいえ近年、本機構との交流や協力を希望する海外の質保証関連の諸団体が増加しており、それらとの間に協定を締結する機運が高まってきている。昨年は「フィリピン大学・短期大学認証評価協会」(PACUCOA)や、「韓国大学教育協議会・韓国大学評価院」(KCUE-KUAI)などと協力協定(MOU)を締結した。詳細はホームページ(http://www.jihee.or.jp)に掲載している。
 本機構の海外諸団体との協力事業は、ほぼ共通して情報交流と人的交流に限られる。情報交流に関して言えば、各国の高等教育の質保証システムは個々の文化、歴史、社会に深く関わっているため、国際的見地からもこれらを比較することは、きわめて意義ある事業といえるが、必ずしも潤沢な情報が入手できるわけではない。本機構としては英語版のホームページをアップしたり、英語版パンフレットを作成したりして海外発信に心がけているが、本機構の諸外国との情報交流はいまだ緒に就いたばかりといえよう。
 人的交流に関しては、一層の困難さを指摘せざるを得ない。なぜならば、国境を越えた人の移動には多額の費用が生じざるを得ないからである。しかし、質保証システムの実務に携わる専門家等による直接的な国際交流が実現すれば、そこに生じるメリットは計り知れず、高等教育のグローバルな質の向上に大きく寄与するものとなろう。
 本機構の認証評価を受審する大学・短期大学もまた、多様な建学の精神、歴史、文化を背負っており、国際的な性格を色濃く示している大学もあれば、ほとんど国際的な色彩を有しない大学もまた存在している。しかし、いかなる大学にせよ、国際通用性の有無について頓着しない大学は皆無であろう。日本高等教育評価機構の国際化あるいは国際通用性は、とりもなおさず本機構の認証評価を受審する諸大学の国際的諸活動の進展と深化に大きく依存しているといっても過言ではなかろう。 
(副理事長 相良憲昭)

(※注)「質保証の国際通用性」
ひとつの国・地域における評価や質保証活動の指針や手順、結果などが他国においても認められ、質の高い教育研究や国際連携・交流を支える仕組みとして機能していることを指す。具体的な事例としては、多様な社会的・文化的背景を理解・尊重しつつ共通の指針に基づいて行われる評価活動、海外の大学との比較可能な評価基準の開発、質保証機関によるアクレディテーション結果の相互認証などがある。(独立行政法人大学改革支援・学位授与機構発行「高等教育に関する質保証関係用語集」第四版より)