日本高等教育評価機構だより

平成29(2017)年3月22日分掲載

フィリピン高等教育におけるアクレディテーション
―レベルに応じたベネフィット設定―

日本高等教育評価機構では、評価システムの策定や改善のために調査研究を実施している。2016年3月には、アジアにおいて私立優位型の高等教育システムを形成している韓国とフィリピンの大学評価の取り組みを調査すべく、両国の評価団体と大学への訪問調査を実施した。本稿では、我が国で紹介されることの少ないフィリピンの高等教育におけるアクレディテーション制度の概要について論じていくこととする。

フィリピン高等教育の概要

フィリピンの高等教育は、アジアの近隣諸国の中では比較的長い歴史を有している。その起源はスペイン統治下の17世紀に設立された大学(サン・イグナシオ大学、サント・トーマス大学)にまで遡ることができる。しかしながら、スペイン統治時代における高等教育機関の数は限られており、19世紀末からの米国統治時代に高等教育が普及し始めた。独立後の1948年には309校の高等教育機関が存在しており、その九割を私立高等教育機関が占めていた(注1)。アクレディテーションに関しても、アジアの中では長い歴史を有しており、1957年にはアクレディテーション団体(PAASCU)が設立されている。

高等教育委員会(CHED)の統計(注2)によると、2016年現在、高等教育機関在籍者数は410万4,841人となっており、そのうち54%に当たる221万9,857人が私立高等教育機関に在籍している。機関数についてみると、国公立の高等教育機関が228校(サテライトキャンパスは除く)、私立高等教育機関が1,706校となっており、高等教育機関の88%が私学という私立優位型の高等教育システムが形成されている。

フィリピン高等教育におけるアクレディテーション

フィリピンには政府と民間のアクレディテーション団体によるアクレディテーションがある。私立高等教育機関は、プログラムを開設する際、高等教育委員会による最低水準に関わる認可を受けなければならない。これに加えて、各機関は民間のアクレディテーション団体によるアクレディテーションを受審することができる。フィリピンには、国公立の教育機関を対象としたアクレディテーション団体が2団体(注3)、私立の教育機関を対象としたアクレディテーション団体が3団体(注4)ある。また、これらの団体により全国質保証団体ネットワーク(NNQAA)やフィリピンアクレディテーション団体連合会(FAAP)といった連盟が組織されており、これらの連盟は各団体によって認定されたアクレディテーションのレベルを証明する機関となっている。

各アクレディテーション団体では、プログラムや機関を対象としたアクレディテーションを実施しているが、その中心となるのはプログラムアクレディテーションである。プログラムアクレディテーションでは、高等教育委員会の覚書(CHED Memorandum Order 2005 No.1)によって、アクレディテーションのレベルが設けられている。アクレディテーションには、アクレディ―テーション候補、レベルⅠ、レベルⅡ、レベルⅢ、レベルⅣがあり、各々にアクレディテーションの要件や認定期間が定められている。これに加えて、各レベルでのアクレディテーションが認定されることによるベネフィットが設けられている(表1)。

表1. プログラムアクレディテーションのレベルとベネフィット

レベル 期間 ベネフィット(例)
レベルⅠ アクレディテーション
3年間
・管理運営及び財政面(授業料設定等)での規制緩和
・届出によるカリキュラム改訂の権限
レベルⅡ 再アクレディテーション
3年間又は5年間
・CHED高等教育開発基金による補助金等の審査における優先権
レベルⅢ 再アクレディテーション
5年間
・レベルⅠ・Ⅱのベネフィット
・届出によるコース開設の権限(レベルⅢの認定を受けたコースの関連分野)
・大学院プログラム、遠隔教育、エクステンションプログラム開設に関わる申請資格
レベルⅣ アクレディテーション
5年間
・レベルⅠ、レベルⅡ、レベルⅢのベネフィット
・レベルⅣ認定期間内におけるプログラムの裁量権
・届出による大学院プログラム、遠隔教育、エクステンションプログラム開設の権限(既存のレベルⅣに関連するコース)

レベルⅢの場合、「高い水準の教育」「優れた研究実績」「優れた資格試験の実績」等の要件が課されており、認定された場合、「補助金等の審査における優先権」「届出によるコース開設の権限(レベルⅢの認定を受けたコースの関連分野)」「大学院プログラム開設の申請資格」といったベネフィットが与えられる。最も高いレベルⅣとして認定された場合、そのプログラムは国内では最高水準にあり、かつ、優れた国外の大学のプログラムに匹敵するものとみなされる。アクレディテーションとして認定されるためには、訪問相談、予備訪問調査、レベルⅠのアクレディテーション、レベルⅡの再アクレディテーションといった段階を踏むことになる。要件を満たす場合には、レベルⅢやレベルⅣのアクレディテーション、さらには機関アクレディテーションへ申請することもできる。各レベルでのアクレディテーションは、概して、自己調査、評価員による訪問調査と報告書作成、理事会による判定、FAAPによる証明といったプロセスで行われる。評価の領域については、各団体によるが、理念・目的、教育、教員、学生サービス、図書館、実験設備、施設、社会・地域貢献が対象となる。

プログラムアクレディテーションにて注目すべき点は、訪問相談や予備訪問調査からレベルⅠに至る初期段階でのプロセスである。今回訪問したアクレディテーション団体では、訪問相談や予備訪問調査によって次のアクレディテーションのプロセスに進めるかの判断を行っている。アクレディテーションの水準に満たない領域がある場合には、アクレディテーション団体から専門家を派遣し、その水準に到達するよう支援を行うことがある。たとえば、図書館の領域に関して不足がある場合、司書を派遣し指導を行う。

まとめ

以上、フィリピンにおけるアクレディテーションの概要をみてきたが、その特徴的な点はプログラムアクレディテーションにレベルを設けていることであろう。このようなレベルを設けることによって、多様な高等教育機関によって提供されるプログラムのアクレディテーションを行うことができる。また、レベルに応じたベネフィットを設けている点も特徴的であり、各機関に対するアクレディテーション受審のインセンティブになると考えられる。このようにレベルを設けているアクレディテーションではあるが、アクレディテーション団体は単に判定をするだけでなく、不十分な領域がある場合には、アクレディテーションの水準に達するよう専門家による支援を行うこともあり、アクレディテーション団体と高等教育機関がともに質の改善に取組んでいる点は評価できるであろう。

しかしながら、先述の高等教育委員会の統計によると、アクレディテーションされたプログラムを有する高等教育機関の割合は26%となっており、任意とはいえ、受審プログラム数という点では課題があるといえよう。

本稿では、紙幅の関係から、フィリピン高等教育におけるアクレディテーション制度の概要について紹介したが、各アクレディテーション団体の取組みについては、近日刊行の報告書『認証評価に関する調査研究』をご覧いただきたい。

(評価研究部研究員 我妻鉄也)

(注1) Welch, Anthony, 2011, Higher Education in Southeast Asia, London : Routledge.

(注2) CHED Higher Education Indicators, as of September 14, 2016.

(注3) フィリピン国公立大学カレッジアクレディテーション機構(AACCUP)、公立大学カレッジ協会アクレディテーション委員会(ALCUCOA)

(注4) キリスト教学校・カレッジ・大学協会アクレディテーション機構(ACSCU-AI)、フィリピン学校・カレッジ・大学アクレディテーション協会(PAASCU)、フィリピン大学カレッジ協会アクレディテーション委員会(PACUCOA)

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