日本高等教育評価機構だより(日本私立大学協会発行『教育学術新聞』連載)

平成31(2019)年2月27日分掲載

米国CHEAの直面する課題と対応
-平成28~29年度の海外調査研究から-

CHEAの概要

 日本高等教育評価機構では、平成28年度から29年度にかけて、海外調査研究を行い、この度、その成果をまとめた報告書を作成した。本稿では、報告書の中から、著者が参加した平成29年10月に実施した米国のCHEA(Council for Higher Education Accreditation:高等教育アクレディテーション機構)への訪問調査の結果を紹介し、日本の高等教育への示唆を考えたい。訪問先は、ジュディス・イートンCHEA会長である。
 CHEAは、米国ワシントンD.C.に所在し、学位を授与する大学やカレッジから構成されている1996年に創設された非政府組織である。3000校の会員校を持つ。この組織は、米国における大学あるいは高等教育機関のアクレディテーションについて、大きく四つの機能を持っている。第一は、アクレディテーションに関する連邦政府へのロビー活動である。組織の中に政府に対するロビー組織を持っている。第二に、高等教育機関のアクレディテーションを行うアクレディテーション機関のレビュー(監査)およびその承認である。第三に、政策分析あるいはデータベースの提供などの会員に対するサービスである。第四は、国際活動であり、CHEA International Quality Group(CIQG:国際質保証グループ)として、高等教育の質保証のための国際的な交流活動を行っている。

アクレディテーション機関との関係

 米国では、アクレディテーション機関についての認証を、CHEAと連邦教育省がそれぞれ行っている。米国のアクレディテーションには二つの目的がある。一つは大学の質保証である。この質の保証は、最低限満たすべき質の閾値、それを設定して、それ以上でなければならないという形で行われる質の保証である。もう一つは、大学の質の改善である。大学教育の効果をさらに増す、そのプログラムを強化していくための役割である。このようなアクレディテーションは、米国の高等教育機関の学術的な質を裏づけ、それに正当性を持たせる一つの源泉になっている。アクレディテーションを受けていることが、学生の大学間の移動や、大学が連邦政府の補助金を受領するための要件となるためである。
 現在、米国には85のアクレディテーション機関が存在する。その内訳は、まず、六つの地域アクレディテーション機関がある。それに加えて、ACCSC(Accrediting Commission of Career Schools and Colleges)、ACICS(Accrediting Council for Independent Colleges and Schools)などの職業教育機関あるいは宗教に基づいた教育機関に対する全国的なアクレディテーション組織がある。さらに、個々の専門分野別の教育プログラムに対するアクレディテーション機関が67機関ある。これらのアクレディテーション機関に対して、CHEAは、アクレディテーション機関のレビュー(監査)を定期的に行っており、アクレディテーション機関に対して、どのような活動をしているのか、定期的な報告を義務づけているのである。

直面する課題とCHEAの対応

 調査の中で、CHEAが直面している課題を尋ねたところ、それは三つのカテゴリーに分けることができるということであった。第一は、アクレディテーションの効果についてである。2008年の景気後退以降、一般大衆の間で、あるいはメディアで、政策立案者や議会を通じて、アクレディテーションは本当に効果があるのか、という疑問が提起されるようになってきた。学生の卒業、雇用、学費ローンの返済、そういうことに大学教育が十分結びついていないのではないか、成果が出ていない大学がなぜアクレディテーションの認定を受けているのか、と問題視されるようになったためである。他方、高等教育において、新たな動向が生じ、イノベーションによる新しいタイプの教育機関が出てきている。具体的には、営利として高等教育を提供する機関が増えていることや、ミネルバ大学という世界的な新しいタイプの教育機関も出てきている。それらの高等教育機関の質を保証するうえで、アクレディテーションがどのぐらい役に立っているのか。これらのことから、アクレディテーションの効果をどのように示すかが一つの課題となっているのである。第二は、アクレディテーション機関に対する連邦政府の監査あるいは連邦政府の監視が強まってきており、それにどう対応していくかという課題である。第三は、アクレディテーション機関はもっと学生を保護すべきであり、そのために大学に対して学生の学習成果についての説明責任をより強く追求すべきではないかと求められるようになっていることである。

学習成果の重視とCHEAアワード

 これらの課題に対して、CHEAでは、アクレディテーション機関に対して説明責任をより強く求めるようになってきたということである。特に、学生の学習成果についての証拠をますます強く要求するようになった。アクレディテーション機関の側では、そういったアプローチに対して必ずしも賛同しておらず、むしろ抵抗もあるということである。しかし、CHEAは一般大衆のアクレディテーションの効果に対する疑問を解消していくために、そのことをアクレディテーション機関に対応を強く求めている。ただ単に大学を評価したということだけでは不十分であり、学習成果について具体的な証拠や説明責任についての内容をより強く問うようになってきたのである。
 他方、CHEAは、2005年から学習成果の測定に先駆的な大学を対象としたCHEAアワード(賞)を創設し、大学の優れた取組みを表彰し、紹介してきた。この賞は、最初数年間は、効果的なプログラム、効果的な実践に焦点を当てて募集され、その後は傑出した実践に焦点を当てて賞を授与した。このような賞を実施することで、効果的な教育実践を奨励する効果があったという。2017年に一度この賞は停止したが、2018年に賞のあり方をデザインし直して、CIQGクオリティアワードとして再開されている(2019年2月に2校に対する授賞式が行われた)。

日本の高等教育への示唆

 今回のCHEAへの訪問調査を通じて、米国のアクレディテーションの状況と課題を確認することができた。非政府組織としてのCHEAは、アクレディテーション機関や大学と連邦政府との中間的な位置にある高等教育の利益代表組織であるとともに、アクレディテーションという米国の高等教育の質保証のための独自のシステムを維持、発展させるための役割を担ってきた。しかし、2008年の景気悪化以降の社会経済状況と高等教育を取り巻く社会状況のなかで、アクレディテーションに対する社会的信頼が揺らいでいる。そこで、学習成果に注目した評価を求めるようになってきたのである。
 これらの状況は、日本の高等教育、認証評価にも当てはまる。大学や大学生の量的拡大を背景に、大学教育は社会的、政治的圧力にさらされている。認証評価には、その大学の教育水準や学生の成長を保証しているのかという疑念も存在する。そして、日本において学習成果の可視化が重要な課題になって久しいが、このことは文部科学省による政策展開のなかで「国から」求められているものと受け止められてはいないだろうか。CHEAの取組みから、高等教育の社会的信頼を維持していくためには、大学界、認証評価機関が自律的に社会への説明責任を果たすことが重要であることがわかるのである。
白川 優治 評価システム改善検討委員会委員(千葉大学国際教養学部准教授)