平成29(2017)年9月27日分掲載
評価員養成の現場から
―認証評価の質向上のために―
本稿は、「認証評価制度」を構成する最重要な要素の一つである「評価員の養成」に長年取り組んできた筆者の経験から、①評価員研修の「現場」からの報告と、②評価員の「やりがい」に関する若干の提言を行うものである。
(1)評価員養成検討委員会の使命
(公財)日本高等教育評価機構(以下「評価機構」という。)の「大学機関別認証評価 実施大綱」(平成30年度版)には、評価員の研修について、次の様に規定されている。
①評価員が共通理解のもとで、公正、適切かつ円滑にその評価活動を遂行できるように、大学評価の目的、内容及び方法等について十分な研修を実施します。
②研修方法としては、「評価基準」及び評価の実施方法を中心とした説明会などを行うとともに、必要に応じて、評価員経験者からの経験談や評価チームごとのグループ研修などを実施します。
③評価員の意思統一及び評価の質の向上を図ります。(注1)
上記の規定に基づいて、現在筆者が所属している「評価員養成検討委員会」は、評価機構における「評価員の養成のための研修」の企画・実施に取り組んでいる。
(2)評価員研修の「現場」からの報告
ところで、認証評価の発足当時のように、受審大学も少なく、評価員の数も少なかった時代と異なり、第1サイクル、第2サイクルともに、図1にあるように、それぞれの後半期には60校から80校へと受審大学が大幅に増加することになる。必然的に、必要とされる評価員も300名から400名の数に達する。(注2)
図1 第1サイクルと第2サイクルの評価校数の推移
しかし、約400名という多数の評価員を対象に、限られた日数(現在は1日)で研修を行い、養成の目的を十分達成するためには、よく工夫された効果の高い研修方法を考案する必要がある。そのために、評価員養成検委員会では、特に毎年実施する二つのアンケート、即ち、評価員研修会(評価機構では「評価員セミナー」と呼んでいる。)の終了後の「評価員セミナーアンケート」と、認証評価を実際に経験した後に評価員に実施する「認証評価アンケート」を重視し、その「評価員の声」の分析を中心にPDCAサイクルに基づいて研修方法の改善を行っている。
ここで、平成29年度の評価員セミナー終了後、「今後、評価員セミナーで取上げることを期待するテーマ」という質問に対するアンケート結果を紹介すると、図2のような結果であった。予想通り、評価経験者では評価基準、文部科学省関連情報等が高く、評価未経験者では書面調査の手順、調査報告書の作成方法等が高くなった。(注3)
図2 今後、評価員セミナーにおいて取上げることを期待するテーマについて
従って、「評価員セミナー」では、このような評価員の声を反映して、午前中は評価未経験者を中心に書面調査の手順、調査報告書の作成方法等について研修を行い、午後からは全員参加で評価基準等について研修会を行っている。
また、平成24年度からは、評価チームの評価員全員(評価機構では1大学当たり5名程)が同じ日程の「評価員セミナー」に参加できるよう、同一内容の評価員セミナーを複数回開催することによって、日程調整がしやすくしている。例えば、平成29年度は6月下旬~7月上旬にかけ7回評価員セミナーを開催し、評価チームはその中の1回に全員参加できるよう調整を行っている。もちろん、その調整のために評価機構の事務局には無理を承知で会場確保や日程調整に尽力いただいている。その甲斐あって、評価チームの評価員全員が初めて一堂に会するこの機会は、認証評価の開始「前」の情報共有の場として、また評価未経験者が評価経験者に気楽に質問をすることで認証評価に対する不安を軽減できる機会として、高い評価をいただいている。今後は、アンケート結果をさらに分析し、従前の講義方式の研修会にこだわることなく、アクティブ・ラーニングを中心とした多様なテーマ別ワークショップを開催し、参加は評価員の選択に任せる研修方式等も検討していきたい。
もちろん、評価員養成検討委員会にとって、「評価員セミナー」が評価員養成のための最も重要な企画であるが、それ以外にも、例えば評価員にとって必携の手引書である「評価のてびき」の編集・発行を行っている。また、最近のICT技術を活用して、「いつでも・どこでも・だれでも」視聴できる認証評価活動の紹介動画「Jihee channel」をWeb上で配信するなど、評価員養成の一層の充実に努めている。
付記するならば、「評価員セミナー」後に始まる認証評価活動は、いわば「OJT」(On-the-Job Training)として、評価員の意思統一及び評価の質の向上にとって非常に重要な機会となる。従って、評価員養成検討委員会では、先に述べたアンケート分析を中心に、認証評価を構成する評価員会議や実地調査等のあり方に関しても、改善のための助言を行っている。
(3)評価員の「やりがい」に関する若干の提言
上記で述べたように、平成29年度だけで評価員が約400名、過去十数年の認証評価活動の中で、評価機構の評価活動に実際に携わられた方々は、延べで3,000名程に達する。
アンケートからも読み取れるが、評価員は認証評価活動の中で、高等教育の改革・改善に参画できる責任と「やりがい」を感じているのは確かである。例えば、「自校の認証評価に参考になった。」「自分の視野が広がった。」「自身の業務を振り返るよい機会になった。」「他大学の評価を通して学ぶことが大きかった。」「負担は学びで相殺された。」「大学の改革・改善にやりがいを感じた。」
他方、多くの評価員が「やりがい」を感じつつも、同時に評価員の80%近くが「負担」に悩んでいることが、図3のアンケート結果から明らかに読み取れる。(注4)
図3 通常の学務を行うに当たり、評価員としての活動はどの程度負担に感じましたか
そもそも、認証評価活動は通常業務とは異なる業務であり、何らかの「負担が増える」ことは当然であるが、それ以上の負担を評価員は感じているように思われる。
具体的にその理由を聞いてみると、教員では授業の休講と補講、会議の欠席等であり、職員では通常業務にプラスの業務、同僚や管理職の不理解、休日をつぶす等であった。 筆者が想像するに、「評価員」は各所属機関から「推薦」された人材、言い換えれば、「所属機関において期待される人材」であり、そのため所属機関でも認証評価でも両者から期待され、結果「負担を感じる」ことに繋がっているのかもしれない。
いずれにせよ、筆者は、今後の認証評価の質向上のためにも、評価員の実質的な負担を軽減し、評価員活動の「やりがい」を一層実感できるための諸施策を、評価機構だけではなく、他の評価機関や文部科学省等とも協力し、実現する時であると考える。実際、文部科学省の「中央教育審議会大学分科会」においても、次のような議論が展開されていることには、賛意を表する次第である。 「例えば、学務の軽減措置や、当該活動の人事評価等への反映などの配慮がなされているようなケースはごくわずかにとどまっている。安定的な認証評価制度の運用は、大学の質の向上に不可欠のものであることから、大学においても一定の配慮がなされることを期待する。」(注5)
ただ、ここで一言付け加えるならば、「大学においても」とあるが、これは「個々の大学に任せる」という意味とともに、それ以上に「日本の高等教育全体においても」一定の配慮を検討すべき時に来ていると考える。例えば、筆者の私見ではあるが、各認証評価機関独自でも、あるいは認証評価機関協同でも、前述したような数千人の評価員経験者の中から「ある一定の条件を満たした評価員への資格付与とその活用制度」の制定を検討してはどうであろうか。
最後に、上記の提言に関連し、筆者が尊敬している、「評価システム改善検討委員会」初代委員長の瀧澤博三先生の主張されていた「クローズドなシステム」の問題、あるいは「フォローアップ制度」(「評価機関と大学との間には、評価後のアフターケアを含め、支援とコミュニケーションの継続的な関係」)の具体化の問題も、上記の制度の制定問題と密接に絡んでいると考える。特に、後者の問題は、長期間にわたる継続的評価活動と、ある一定数の有能な評価員及び評価員組織を必要とする点で、新たな第三サイクルが開始される今こそ検討すべきと考える。(注6)
吉田修 評価員養成検討委員会委員長(愛知産業大学経営学部教授)
(注1)「平成30年度 大学機関別認証評価 実施大綱」の「4.評価の実施体制」から。①②③は筆者が加筆。
(注2)図1は短期大学及び再評価校は除いた大学のみの校数。また平成29年度は認証評価実施予定の校数である。
(注3)「平成29年度機関別認証評価 評価員セミナーアンケート集計結果報告」
(注4)「平成28年度大学機関別認証評価に関するアンケート集計結果報告(大学評価員)」
(注5)「認証評価制度の充実に向けて」(審議まとめ)(平成28年3月18日中央教育審議会大学分科会)
(注6)瀧澤博三「認証評価機関の整備の方向性を問う 「設置者別」をどう考えるか」『アルカディア学報』2493号(2012年8月)