日本高等教育評価機構だより

令和元(2019)年11月27日分掲載

北欧の高等教育の現状と大学評価
―令和元年度海外調査研究から―

本稿の構成

日本高等教育評価機構の評価システム改善検討委員会委員として、本年9月に欧州2ヶ国での現地調査を実施した。本稿では、背景となる欧州高等教育圏とその質保証、両国の質保証について書面調査と現地調査で得られた知見をもとに簡潔に紹介する。ただし、紙幅の関係で、調査国のうち主にスウェーデンを紹介し、フィンランドについては特徴的な最新動向のみの紹介とする。なお、英文正式表記は一部省略した。

欧州高等教育圏

1999年に、「欧州高等教育圏」(EHEA)の形成をうたった「ボローニャ宣言」が、欧州29ヶ国の担当大臣によって採択された。以後のEHEA形成に向けた一連の過程は「ボローニャ・プロセス」と称される。現在参加国は48である。

欧州高等教育の質保証

EHEAにおける質保証枠組みは、欧州諸国の高等教育質保証機関のアンブレラ組織である欧州高等教育質保証協会(ENQA)を中心に形成されてきた。さらに、2005年には、EHEAにおける質保証の規準とガイドライン(ESG)が採択された。

ESGは、内部質保証、外部質保証、質保証機関の3部構成となっている。質保証機関がENQAの正会員として加盟する際、ESGへの準拠も必須条件となる。また、ESGに準拠している質保証機関を登録する欧州高等教育質保証機関登録機構(EQAR)が、ENQAから独立し存在する。

スウェーデン高等教育機構

スウェーデンでは、高等教育機構(UKÄ)が質保証を担う。UKÄは、政府が運営に関与する政府機関であるため、独立性の観点からESGを満たせず、現在のところENQAでは賛助会員である。現在、正会員になるための作業が進められているそうだ。UKÄの任務の1つに「高等教育と研究の質保証や公立高等教育機関に対する学位授与権の認可」がある。本稿ではここに焦点を当てる。

スウェーデン高等教育質保証の大枠

スウェーデンでは、2016年から新しい高等教育質保証の枠組みが始まった(22年まで)。この枠組みは「機関別評価」「プログラム評価」「学位授与権の認可」「テーマ別評価」の4種類の評価で構成される。これらの評価は、以下6つの基準項目のすべて、もしくは一部から行われる。①ガバナンスと組織、②教育上の前提条件、③教育活動の設計・教授学習・成果、④ジェンダー平等、⑤学生及び博士課程学生、⑥職業生活、である。

また、これらの評価はいずれもピア・レビューを基本とする。評価パネルを構成するのは、通常は学外からの専門家、学生代表、雇用者や労働者からの代表である。本稿では、以下「機関別評価」に焦点を当てて説明する。

スウェーデン高等教育における機関別評価

機関別評価は、当該機関の内部質保証を対象とし、さらに質保証枠組み(Quality System)と質保証運用(Quality Work)を明確に区別している。

機関別評価の主な材料は4点ある。第1に、自己評価報告書で、機関自身の内部質保証に対する評価と、6つの評価基準に対する評価を記述する。

第2に、学生団体から提出される報告書である。なお、その内容によって自己評価への学生参加の機会に影響を与えないことが明確にされている。

第3に、2回にわたる実地調査である。1回目は、自己評価報告書などに対する質問や確認など、一般的な実地調査である。2回目では、内部質保証が質の改善や高い質の維持を果たせる運用になっているかどうかをさらに評価するため、1つまたは複数の評価項目に対する追跡評価(audit trails)を行う。1回目の調査の際に得た情報などから、対象としたい評価項目を評価パネルが決定し、受審校に知らせる。調査の際には、さらなる文書提出を求めつつ、しかるべき人物へのヒアリングなども行う。第4の材料は、この追跡評価における提出文書である。

最終的な評価は、「認定」、2年以内に不適格であった評価項目に対するフォローアップ評価を別途求める「認定(要観察)」、2年後に改めて評価をし直す「再評価」の3段階でなされる。

評価の厳しさと活用

UKÄの発表では、2018年度春期の評価を受けた4校については、2校が「認定(要観察)」、2校が「再評価」の判定だった。ここで「再評価」を受けたある機関でもヒアリングを行った。新しい評価基準への対応において、求める水準に対するUKÄと現場との認識に乖離があり、結果的に十分共有されていなかったことが「再評価」となった最大の理由ととらえているようである。むしろ質保証の重要性に対する意識は非常に高く、得た評価を謙虚に受け止めており、今後の質改善・向上に役立てるためにさまざまな検討が進められているとうかがった。

フィンランドの質保証

フィンランドで高等教育の質保証を担うのは教育評価センター(FINEEC)である。高等教育だけではなく幼児教育から生涯教育まで全般の評価を担う。政府からは独立している。2018年から24年までの6年間の評価サイクルにおける評価基準は、①競争力の創出、②インパクトと革新の促進、③質と福祉の強化、④学習する組織、の4つであるが、④は、評価の判定には影響しない。①②については、学生中心主義に基づく教育の計画・実践・強化と同時に、フィンランド社会全体にもインパクトを与える高等教育機関としての質強化志向を求めている。なお、③でいう「福祉」(well-being)は、平等の促進や差別の追放といったことと関連している。ここでは、紙幅の関係で、この評価サイクルに関する詳細は割愛し、④に関連する新たに導入されたある試みに焦点を絞って紹介したい。

ベンチラーニング

それが、ベンチラーニング(benchlearning)である。能力や成果をモノサシとして同業他社と比べるのはベンチマーキングであるが、これは他者と比べて良き実践などに自身が学ぶことを指す。

評価においては、これを評価基準の①②③で取り入れてもかまわないし、④で行ってもかまわない。

具体的な作業の概略としては、ベンチラーニングを行うパートナーを決めて、実地訪問を行って、お互いの「良き実践」を見つけ合い、それを報告書に含めることになる。

事例の蓄積はこれからだが、ドイツの大学をパートナーとする事例がすでに出始めているそうだ。

FINEECでは、他の共同体から学ぶことや、積極的な対話や、成長し合うかかわりが本質的なものとされるところで機能する、協働的な営みとこれを定義し、利点として、組織の現況についての仲間からのフィードバック、新しい視点の獲得、社会的つながりの構築を挙げている。

まとめ

今後特に注目したいのは、スウェーデンでの「追跡評価」とフィンランドでの「ベンチラーニング」である。前者は内部質保証の実質化の促進に、後者は、特に当機構が是とする対話型の質保証の路線にも符合すると考える。

調査結果について、十分にお伝えできないのが心苦しいが、後日当機構から発行する調査研究報告書にて改めたい。機会をいただいた関係各位に感謝を申し上げます。

大佐古紀雄 評価システム改善検討委員会委員(育英短期大学保育学科准教授)

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