令和3(2021)年6月23日分掲載
コロナ禍における令和2年度の認証評価を実施して ―評価員の立場から―
日本高等教育評価機構(以下、機構)では令和2年度、大学42校、短期大学2校及び専門職大学院1研究科の認証評価を実施した。同年度の評価について考察するにあたり、まずはわが国における新型コロナウイルスの感染推移について振り返る。
急速に拡大した感染
わが国で初の感染事例が報道されたのは令和2年1月16日のことで、中国・武漢への渡航歴のある者だった。厚生労働省が発表した同日付の報道資料には、「新型コロナウイルス関連肺炎に関するWHOや国立感染症研究所のリスク評価によると、現時点では本疾患は(中略)持続的なヒトからヒトへの感染の明らかな証拠はありません」とあり、コロナウイルスについて「人に感染症を引き起こすものはこれまで6種類が知られていますが、深刻な呼吸器疾患を引き起こすことがあるSARSとMERS以外は、感染しても通常の風邪などの重度でない症状にとどまります」との注記が付されており、当時はどこか隣の国で流行り始めた感冒程度に捉えられていた。
ダイヤモンド・プリンセス号内での集団感染が明らかになったのが2月初旬のこと。感染患者が防護服を身にまとった救急隊員によって次々に搬送されていく状況をテレビ越しに見て、いよいよコロナが身近に迫ってきたと感じた。
3月2日から全国の小中学校が休校となり、4月7日には緊急事態宣言が発出された。当初は5月6日までの予定であったが、同月25日まで延長された。これにより多くの大学で卒業式、そして入学式が中止あるいは規模を縮小しての分散開催が強いられ、その後は遠隔授業等の対応に追われた。
機構側の対応
そんな状況下での機関別認証評価ということで、機構側も手探りで進めてきたというのが正直なところであろう。評価員初任者を対象とした研修を含めた「評価員セミナー」はwebによる動画配信となった。出勤も制限された中での動画制作はさぞかし大変であったことと思う。そして団長を集めた「団長セミナー」も、日時を分散してZoom会議で行われた。
これらに先立ち同年7月1日に開催された「評価システム改善検討委員会」では、同年度の実地調査について次のような意見が出された。
・現地に行って実際の状況を確認することが書面調査の補完になるため、日程を短縮して実地調査を実施すべきと考える。
その一方で、いわゆる第一波の経験から
・調査の直前で移動が制限される可能性もあり、実地調査の代替手段を用意しておくべき。施設設備の視察については、構内を紹介する映像を受審大学側で作成してもらっては。
・越県や移動ができなくなる可能性があり、評価チーム全員で実地調査を行うことは難しいのではないか。また医療系大学の場合、実地調査の受入れが不可能になる可能性も高い。来年度以降の状況も見据えて、オンライン開催を含めた新しい運営方法を検討していく必要がある。
・オンラインでの調査を基本とし、大学の状況によって実地調査が必要な場合は、団長と事務局だけで訪問しては。
など、オンラインによる実地調査を推す意見が続いた。
評価員を経験した方であれば、受審大学が提出した自己点検評価書を読み込み、第一回評価員会議で議論し、書面質問を交わした後に実際に大学を訪問して、法人役員や大学役職者、そして各担当者から説明を受けること、その後の学生との面談や学内施設の視察、学生食堂での昼食といった経験を通して「その大学を肌で感じる」ことの重要性は疑う余地のないところであろう。しかし、上述の委員会直後から感染患者が増加フェーズに入り、いわゆる第2波が襲来したことから、同年度の実地調査をすべてオンラインに切り替えることが決まった。
医療系大学の評価を担当
筆者は令和2年度、医療系学部を有する大学の評価を担当した。5名の評価員のうち、初任者は1名で、すべての会議はZoomを利用したオンライン会議となった。
評価員にとって最初の顔合わせとなる「評価チームごとの情報共有」では、団長として「オンラインでは、これまでの評価と異なり時間的にも制約を受けることになる。そこで第一回評価員会議までに徹底的に疑問の洗い出しをしていただき、基準ごとのコメントを書き出すだけでなく、書面質問及び依頼事項へ反映させて欲しい」とお願いした。
第一回評価員会議では、コメントの読み合わせを極力減らし、ささやかな疑問点でもすべて書面質問事項へと挙げるようにした。これは、①従前の対面調査でもなかなか質疑が噛み合わないことを筆者が経験してきたことから、オンラインではさらに質問者側の意図が通じにくい可能性がある、②実地調査が10月下旬の予定で、受審大学内、あるいは評価員が所属する各大学内で遠隔授業等がリアルタイム配信で行われた場合、各大学内のデータ通信量が急増し、その結果、オンライン会議自体が不安定になる可能性がある、③受審大学の附属病院では新型コロナウイルスの患者受入れを行っており、大学役職者も臨床の要職に就かれていることから、もしも感染状況が悪化した場合にオンライン会議にすらも出席できなくなる可能性もあること等を、団長として想定したためである。
結果的に例年と比べて1.5倍から2倍ほどの質問事項となり、例年通り2週間で回答を準備させられた受審大学には大きなご負担をかけることとなった。しかしながら誠実に対応して下さり、回答書と共に追加資料等も提出された。評価員の疑問はほぼ解消し、オンラインでの実地調査を大変スムースに終えることが出来た。およそ半年間の評価を通じて、互いにリアルでお目にかかる機会も無きまま評価作業を終えることとなったが、評価員ならびに事務局の皆様にはこの場をお借りして感謝申し上げたい。
令和2年度の評価を振り返って
令和3年5月12日、「評価システム改善検討委員会」が開かれ、令和2年度の機関別認証評価に関するアンケート結果が報告された。オンライン会議の利用について、その実施が十分可能であると回答した評価員の割合を見ると、動画視聴による評価員セミナーについては76%が、評価チームごとの情報共有は61%が可能であると回答した。
これに対して、第一回評価員会議は56%、実地調査は26%、受審大学側に動画で提出いただいた教育研究環境の視察については17%が可能と答え、あらためてリアル会議やリアル調査の重要性が再認識されるとともに、実地調査をオンラインへ切り替える際に、更なる工夫が必要であることが示唆された。自由記載欄には、評価員同士の連携や相談が上手く進まなかったという指摘もあったが、筆者の印象では、機構側が設定した会議以外に、基準ごとに団長―主担当―副担当間でメール会議を開催し、どこが疑問なのか、どのように指摘すればよいのか等、互いに文字を通じての積極的な意思疎通を図ることが、withコロナの状況下で改善の一助になると思われた。
一方、受審大学側へのアンケートからは、対面の良さを理解しつつも、オンラインでの実地調査では宿泊や移動に関する費用が軽減され、かつ調査目的を果たすことが出来ている、といった前向きな意見も聞かれた。
われわれはwithコロナを経験し、オンラインの良さも享受しつつある過程にあると考える。beforeコロナでは前泊を含めて2泊3日をかけて実地調査を行ってきたが、
・第一回評価員会議までの洗い出し作業を通じて実地調査前の書面質問を徹底すること
・実地調査後に評価チームによる評価報告書案①をまとめ始めると、指摘事項として挙げるべきか悩むことが少なからずあり、評価報告書案をまとめる過程で、すなわち第5回評価員会議の前後に、さらに「追加書面質問」の機会を新設すること
で、実地調査の期間を実質1泊2日に短縮することが出来るのでは、と思料する。
近い将来、postコロナの世界がパッと開けて、従前のような評価スケジュールへと戻すことができるだろうか?もしもウイルスが今後も変異を続け、これに対してさまざまな、あるいは混合ワクチンを毎年接種せざるを得ないような状況が続くとすれば、過去の経験にとらわれることなく、実地調査の期間短縮を含めたハイブリッド方式も模索せねばならない。beforeコロナよりも質の高い評価を行えたとき、初めて「ハイブリッド」と呼べるのではないだろうか。
(朝日大学学長・医師 大友克之)