日本高等教育評価機構だより

令和3(2021)年10月27日分掲載

令和2年度認証評価受審大学のグッドプラクティス(優れた取組み) ―評価充実協議会の事例発表から―

はじめに

日本高等教育評価機構(以下、『機構』という。)は、認証評価に関する大学相互の共通認識を深め、協力体制を構築し、認証評価制度の充実を目指すとともに、教育の質の維持向上への啓発を目的として、毎年度「評価充実協議会」を開催している。令和3年度は、コロナ禍のなかオンデマンド配信で開催し、7月12日~30日までの3週間、理事長、学長、事務局長等の大学関係者に限定公開で配信した。

協議会オンデマンド配信のプログラムは、開催趣旨及び活動状況報告、基調講演、事例発表となっている。開催趣旨及び活動状況報告、基調講演については、令和3年8月4日発行の本紙で、詳細を報告しているので割愛し、本稿では、3つの事例発表の概要を紹介する。

機構の認証評価においては、大学の「改善を要する点」や「参考意見」など課題や「弱み」を指摘するだけでなく、同時に大学の「優れた点」として「強み」を明らかにすることも重要な評価として位置付けている。「優れた点」として評価する場合は、次の項目のいずれかに当てはまることを目安としている。

・使命・目的及び質保証などに照らして、「優れている」と判断した事項

・質の保証及び向上に寄与する取組み

・個性・特色があり一定の成果を挙げている取組み

・先進的で一定の成果を挙げている取組み

・十分に成果を挙げている取組み

・十分に整備され機能している取組み

・他大学の模範となるような取組み

協議会では、令和2年度の認証評価受審大学の「優れた点」の中から、法人運営を中心とした取組み、教学面を中心とした取組み、大学・短期大学の同時受審による法人全体とした取組みの3つの内部質保証の優れた取組みについて事例発表があった。

まず、「内部質保証の取組み~法人運営を中心に~」と題して、学校法人埼玉医科大学常務理事・事務局長の茂木明氏から事例発表があった。

同大学の全体のガバナンス・体制としては、理事長、学長、病院長らを中心とした教育・研究、診療連携会議により調整や情報の共有を図っており、その管理組織の責任者は事務局長が担っている。令和2年度の評価の受審に当たっては、まず、この組織体制と責任者を明確にした。PDCAのうちPとAを担当する大学運営会議、Cを担当する全学自己点検・評価委員会が内部質保証の責任を負う会議として明確に位置付けた。

法人については、PDAは理事会が担当し、Cは常任理事会が行うことができるよう、規程改正とともに、担当組織を明確にした。法人で行った具体的な取り組みとしては、長期総合計画の見直しや基本的な目的等の見直しの必要性について検討するとともに、改正私立学校法に対応した規程等の制定改廃を行った。また同時に、内部監査室の機能を強化した。

認証評価において取り上げられた優れた点としては、「基本理念等をまとめた「行動のしおり」を教職員、学生のみならず保護者にも配付し周知に努めている。」「毎年5月の決算理事会時に、理事会及び各理事が自己評価を行い、理事会の機能及びガバナンスの強化を図っている。」「令和2年度からはこれまでの「理事の手引き」を改変した「理事必携」を作成し、理事の就任に際し周知している。」などについて紹介があった。受審後の今後の展開としては、内部質保証の継続、教育・研究の質の向上、来年度完遂する計画の検証と次の長期計画の策定に取り組むとのことであった。

次に「内部質保証の取組み~教学面を中心に~」と題し、岐阜協立大学学長の竹内治彦氏から発表があった。

同大学における単位認定に当たっては、認定率をもとに教務委員会が客観性のある評価の確保に努めている。シラバスについては、内容を点検する制度を導入し、記載方法の統一を図っている。学修成果については、社会で求められている能力(ジェネリックスキル)をリテラシーとコンピテンシーの二側面で客観的に測定するアセスメントテストであるPROGを学年・学部別に集計・分析することにより達成状況を把握するとともに、その結果を学生にフィードバックすることで学生の成長を支援している。

教育の内部質保証で取り上げられた優れた点としては、地元の企業・高等学校の関係者などをメンバーに加えた「教育研究推進懇談会議」を開催し、学生に求められる能力、能力評価と育成、学生に求められる資格などについて、外部の多様な意見を聴取した上での内部質保証を推進していることや、職員にIR専門職資格の取得を促し、学内の種々の情報を数値化・可視化して分析し、大学運営に活用している。中期計画に記載した項目については、独自の「岐阜協立大学PDCAシート」を使用してサイクルを実効的に回すよう努めていることなどについて説明があった。

最後に、「法人全体の内部質保証~大学・短期大学の同時受審を経験して~」と題して、学校法人作陽学園副理事長の松田藤夫氏から発表があった。

同大学の自己点検体制では、経営教育全般において改善が必要とされる内容について経常的に審議、調整する改革会議が中心となって行っている。4月からの自己点検評価活動、目標による管理制度、事業計画作成、予算作成、人事評価への反映、翌年5月の事業報告書・決算まで年間のスケジュールが綿密に立てられ実施されている。自己点検評価項目の範囲としては、機構の点検項目のほか、運営点検項目、教育の質にかかる客観的指標による点検項目、私立大学等改革総合支援事業による点検項目に加えて、IR結果による独自の項目を設定している。これらの点検評価を行った結果は、改革会議に報告し、その結果から求められる課題は新たに議題として取り上げられ、実施体制が検討される仕組みとなっている。

法人の質保証体制としては、運営会議を中心に調整し、理事会へ付議するものや設置校での審議を求める等の審議を行っている。また、監事の監査事項については、自己点検活動の取り組み状況とその検証、学修成果の検証、中期計画の進捗状況、高等教育就学支援制度の活用状況、学生募集及び入試、公的研究費不正防止の取組状況、留年、退学、除籍の状況、予算執行手続、情報開示状況など、多岐にわたって行われている。

今回が2度目となった大学・短大同時受審において、大学、短大双方における独自性を再認識するとともに、規程等の整備や希薄になりがちな線引き等を明確にすることができる。さらに、同時受審の方が大学、短大が別々に受審するよりも受審業務において大幅な負担軽減となり、小規模校にとっては大きな利点があるとのことであった。

(常務理事・事務局長 伊藤敏弘)

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